Outstanding Performance
santecではこのたび、1 kWの光パワーに耐える近赤外波長(1 µm帯)対応の空間光変調器「SLM-310」を開発しました。
これは、レーザー加工や金属3Dプリンティングといった産業分野で、より高出力のレーザーを用いたビームシェイピングへの
ニーズが高まってきたことを受けたものです。 本製品の開発背景や技術的な工夫について、開発に携わった技術者に話を聞きました。
現在、高速加工が求められる分野では、ガルバノスキャナを用いたレーザー加工装置が使用されています。この方式は、ガルバノモーターに取り付けられたミラー(ガルバノミラー)を動かすことで、レーザー光を高速かつ高精度に照射するものです。金属や樹脂など、様々な材料に対応可能であり、スタンダードな加工方式のひとつです。 しかし近年、お客様から以下のようなご意見をいただくようになりました。
「加工内容が変わるたびに、レーザー加工のセッティング変更が必要で時間がかかる」
「広範囲を加工する際、ビーム形状が変化して品質のばらつきが発生しやすい」
実際、加工対象や目的に応じてビームパターンを変更する際には、回折素子やレンズなどの光学部品を都度交換する必要があり、その手間やコストは現場にとって負担となります。さらに、複雑な形状の加工や素材の多様化が進む中、高出力レーザーへの対応も強く求められています。
こうしたニーズに対し、空間光変調器は有望なソリューションとされてきました。ビームの形状や照射パターンをソフトウェアで自在に制御できるため、物理的なセッティング変更が不要となるからです。しかし、従来の空間光変調器は、kWクラスの高出力レーザーに対する耐光性が不十分で、レーザー加工や金属3Dプリンティングで使用する場合には制約がありました。私たちはこの技術的な“限界”を打破し、高出力レーザーで本当に使える空間光変調器の実現を目指しました。
私たちが目指したのは、従来にない「1 kW対応LCOS型空間光変調器」です。
1 µm帯はファイバーレーザーの主要波長であり、量産実績が豊富で、比較的コストも低いため、レーザー加工分野では広く使用されています。本製品は、そうした産業現場での応用を強く意識して設計されています。
高出力対応の鍵を握るのは、発熱の抑制、放熱性、そして耐熱性です。
これら3つの要素を徹底的に見直すことが、高出力化の実現には不可欠でした。開発チームは、冷却構造設計から放熱性の高い素材選定、高出力用途に適した液晶材料選定に至るまで、従来の空間光変調器をゼロから再設計しました。
「従来の設計なら液晶が焼き付くようなレーザーパワーでも、想定以上に発熱が抑えられたんです。」
初号機の試験では測定結果を疑ったほどだったと、担当者は笑います。
特に印象的なのは、ある“偶然の間違い”が大きな突破となったエピソードです。
「あるメンバーが、使用する材料を間違えて使ってしまって。でも試してみたら、思いがけず良い結果が出ました。」
偶然と地道な試行錯誤の積み重ねによって、1 kWの耐光性と高い光変調性能を両立した新しい空間光変調器が誕生しました。その後も、10回以上にわたる長時間の信頼性試験を実施。改善を重ねた結果、高出力環境下でも安定した動作と優れた性能を実現することができました。
空間光変調器は、従来の方式とは異なり、ソフトウェア上でレーザー光の照射範囲やパターンをリアルタイムかつ高速に変更することができます。また、1回の照射で複数の箇所をワンショット加工できるため、タクトタイムの短縮や生産性の向上が期待されます。さらに、レーザーのエネルギーをピンポイントで制御できるため、必要な箇所にのみ熱を集中させることが可能です。これにより、スパッタの発生も抑制され、品質の安定化にも貢献します。加えて、可動部品が少ないことから、装置全体の耐久性向上にもつながります。
今後は、「空間光変調器を前提としたレーザー加工装置の設計」が主流になる可能性も見えてきました。
「最終的にはOEM供給を視野に入れた量産も見据えています。これまでのような大学や研究機関などへの個別対応にとどまらず、産業界での本格導入を目指しています。」
熱との戦いに終止符を打つ製品開発が、ついに実現しました。様々な専門性を持つメンバーが、知恵と経験を結集した成果です。
「正直、少し不安もあります。実際の現場で何千時間も稼働したときに、どれだけ耐久性があるのか──。でも、これまで積み重ねた改善のすべてが、私たちの自信になっています。 あとは、私たち開発者では思いつかないようなニーズが、現場にはきっとあるはずです。フィードバックをいただきながら、一緒に改良していければと思います。」
そして、完成品を手にしたときの感想は?
「重い!いや、物理的に重いんですよ(笑)。でもそれだけ、中身がぎっしり詰まっている。技術も、想いも。」
この新しいSLMが生み出すのは、かつてない自由なビーム制御。そして、レーザー加工の未来を“光”で変えていく、確かな一歩です。
santecは今後も、光学技術を核としたソリューション開発を通じて、最先端の製造現場を支え続けてまいります。